読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

指揮者だって人間だ

晴れた日には洗濯を。

どこか懐かしい幻想の世界(panpanya「蟹に誘われて」を読んで)

マンガ 小ネタ

ひさびさに「これは…!」と思えるマンガに当たったのでレビューを書いてみます。
panpanya の「蟹に誘われて」です。

蟹に誘われて

蟹に誘われて

panpanya は初めて読んだのですが、このマンガが面白い2014で名前は知っておりずっと気になっていました。
このマンガが面白いで掲載されていた足摺り水族館は紹介とカットを見る限りではかなり面白そうでずっと気にはなっていたのですが、流通が少ないためか本屋では見かけることなくなんとなく忘れていたのです。

そんなおり、先週たまたま行った本屋で panpanya の新刊が出ており衝動買い。
読んでみたいと思っていたものの新刊の方は全くノーチェックでしたし早まったかなとも若干思ったのですが、期待を大きく上回る素晴らしい作品でした。

この作品の雰囲気は本当に独特で、ある種幻想的であり、陰鬱さや閉塞感も感じさせる。
懐かしい何処かでみた景色のような気もするし、「ねじ式」のように夢世界のような趣もある。
しかし総じて言えるのは今までに見たことのないものだということです。

収録作品はどれも、鉛筆で書かれたような簡素で記号的なタッチで描かれた女の子(やくしまるえつこが描く女の子っぽい)と貸本漫画のようにカケアミが多用された重苦しい背景とが混在したもので、主人公が別世界に連れて来られたような不思議なテイストとなっています。
物語の筋的には重苦しいものではなくノーテンキな日常っぽいものが多い。
ただ若干の不条理は入った形で。
表題にもある「蟹に誘われて」は4pの短編ですが、女の子が下校の途中で蟹を見つけて逃げる蟹を追ううちに蟹に誘われていろいろな場所に連れて行かれて…という話です。
ことばにするとナンジャコリャ感満載ですが、一度受け入れてしまえばこの狂った世界観がくせになってしまいます。

特に素晴らしかったのが「方彷の呆」という中編。
女の子が寝過ごしそうになった駅で慌てて飛び降りると、そこは見たこともない駅。
昼間なのに電車は終電になり、バスを探すと「バス停などない」という張り紙があったり、タクシーを止めようとするとどのタクシーもタイヤの空気が抜かれている。
現実と地続きだったはずの世界なのになぜか帰れなくなり、見たことのない町が自分に襲いかかるような恐怖の中、自分を探してさまようお話です。
芥川龍之介の「トロッコ」に代表されるように見知らぬ街へ来てしまった幼い頃の恐怖は誰しもが持っている思い出で、それだけに幻惑の中の恐ろしさがよりリアルに浮かび上がって来ます。
しかしそれをただの2流SFっぽく落とさず、あくまで文学的に観念的に仕上げて叙情性を持たせているセンスが稀有。
密度の高い背景のなかで、主人公の少女の書き込みの少なさも読者に安心感を与えます。

こういうきわきわの人が商業誌に出て来たことが驚きです。
本当にびっくりして、なんども読み返したくなった。
私の中では2014年に出会ったマンガの中でダントツ1位です。
同じような作風が多いなあと思っているとたまにこういう尖った人が出てくるから気が抜けません。
足摺り水族館も絶対買おう。

足摺り水族館

足摺り水族館

広告を非表示にする