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指揮者だって人間だ

晴れた日には洗濯を。

伝わる例え、伝わらない例え

考え方 生活
私は例えを用いて説明するのが好きです。
合奏でも奏者への指示を出す時に頻繁に使うのですが、比喩ってうまく使わないと意図が全く伝わらないんですよね。
指揮者としての経験から色々と学ぶことがありましたので、わかりやすい例え、わかりにくい例えについて書いてみようと思います。

 

村上春樹 読める比喩事典

村上春樹 読める比喩事典

 

 

まずは、伝わりにくい例えから。

うまいこと言おうとしている時の例えは伝わらないことが多いです。
糸井重里が何かのインタビューで「うまいこと言おうとすると返って伝わらない。素直に説明しなきゃだめ」と言っていましたがその通りだと思います。
うまい例えって理解された時はすごく嬉しいんですよ。
「なるほどなるほど!」って一発で理解してくれるので説明しているこっち側も満足感を得られるのですが、うまく言おうとすればするほどあたり判定は狭くなって、一発でわかる人が少なくなるんですよね。
私も結構うまいこといいたがりなので、「いまのフォルテは優しいお母さんみたいなフォルテだね!お母さんはお母さんでももうちょっとたくましい、昭和のお母さんみたいなフォルテの方がいいかな!」とか言ってドヤァとしてしまうんですが、奏者の頭上にハテナがたくさん浮かんでいるのを見て後悔します。
あわてて「ちょっとアタックが弱いから、もっと息を入れて…」と具体的な説明をするのですが、それなら最初からそう言えよ的な空気がただよっていたたまれないことこの上ないです。
うまいこというのは結局自己満足なのであって、きちんと伝えたい場合はウケたい気持ちをいったん横に置いておきましょう。
文学作品などの、例えることのうまさに価値が生まれてくるものに関してはまた違うと思いますが。
 
共通認識が取れていないものを使って例えてしまうのも危険です。
「ここの部分はドイツマーチのように気品と重厚さを大事に!」と言ってもドイツマーチを知らなければ意味がないわけで。
そういう例えを使いたいのであれば、ドイツマーチという単語を使わずに説明するか、ドイツマーチは他のマーチと比べてどのような違いがあるかをまず教えてあげるべきです。
これ、中高年の人に多いんじゃないかと密かに思っています。
私は、おじさんって自分が知っているものは誰でも知っていると思っている視野の狭い人が結構いるという偏見をもっていて、スピーチとかで「ことし流行った◯◯にあやかりまして…」とか言っているのを見るたびに「知らねえよ…」と思ってしまいます。
例えに固有名詞を使う時は気をつけましょう。
逆に漫才とかだとこういうポイントの狭いものほどウケたりするとは思うんですけどね。
チュートリアルの「これ mixi に書いてもいい?」とか、ナイツの「ヤホーで検索」とか。
 
逆に伝わりやすい例えはなかなか難しく、これをすればいいという定石はないと思うのですが、個人的には具体性9割、抽象性1割くらいの例えがもっとも伝わりやすい気がします。
ただ説明するだけだったら例えっていらないと思うんです。
具体的に説明できることは具体的に説明した方が確実に伝わりますし、具体的に説明できないことであれば自分の中でいいたいことがまとまっていないのでそもそも例えを使ってもうまく伝わりません。
説明に例えを持ち込むのって、聞き手の理解速度を上げるためだと思うんですよ。
パンだけ食べているとのどにつかえるけど、お茶を飲めばすっと飲み込めるみたいな。
中学生が卒業式で先輩を送り出すための曲の練習をしている時に、「最初は小さく、だんだん盛り上げて、最後は全員しっかり吹いて」という説明でもいいのですが、ここに「いままでお世話になった先輩を送る気持ちを込めたような感動的な音を」というと、自然と音は大きくなるし、響きも豊かになるんです。
あと例えの方が記憶に残りやすいので、持ちがいいというか本番でもしっかりと聞いてきます。
繰り返しますが具体的な指示あっての例えですので、「感動的に吹いて」とだけ言ってクレッシェンドが足りなかった時に「もっとクレッシェンドが強くしなさい!感動的にって言ったでしょ!」というのはお粗末です。
「じゃあ最初からそれ言えよ」と絶対思われます。
そういう添え物としての例え、という意味で具体性9割抽象性1割という割合かなと思います。
 
比喩って芸術にはつきものだと思うんです。
詩なんかまさにどう例えるかみたいな芸術ですし、絵や音楽でも抽象的に何かを表した作品というのはあるわけで。
ただ意思疎通を考えると例えは積極的に使わない方がよいと思うんですよね。
「キリンみたいに」「はいはいキリンね」と言っても、キリンの首の高さをイメージするか斑点模様をイメージするかは人それぞれですし、伝える情報が少ない分あいまいさをどうしても残してしまいます。
例えはあくまで理解の補助として。
パンに対するお茶のように。

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